♪貴ッ様とオーレーとぉーわー!同期のさくぅらぁぁぁぁぁ♪
こんにちは、イケダです。
先日はrookie dayと称して、今年去年にダイバー認定された方のみ限定のイベントで初島に行ってました。その中に、Sさんという男性が参加されていました。今回は彼が初めてうちに来た時のことを書かせてください。
(画像は全てrookie dayの時のものです)
僕のスクールでは、安全管理上、未経験者対象の「オープンウォーターダイバーコース」の1回のコースの定員を6名様までとし、全員が同じ習得ペースで練習を進められない時のことを考えて、主副2人のインストラクターで担当します。
ある時、学科、プールと順調に終え、さぁいよいよ海洋トレーニング初日という段階で、Sさんが急激に怖くなってしまいました。去年のGWのことです。前日までプールまでは全てのスキルを水中で難なくこなしていたのですが、海本番で色々と想像してしまい怖くなり、レギュレータを咥えて水面に顔をつけて呼吸することすら苦しさを訴えてできません。
マンツーマン対応に切り替えましたが、その日は潜れず、その翌日も潜れず。結局Sさんは3日間の日程でダイバー認定を受けることができませんでした。しかし僕らの指導力不足を攻撃的に指摘するわけでもなく、他の5名様が認定手続きを受ける中、大人の対応をされていました。内心では情けなかったり、自分に腹が立ったり、1秒でも早くスクールから逃げ出したかったはずです。その時の仲間を讃える立ち居振る舞いは本当に立派でした。
ダイビングはご本人がやりたいと心から思わないと、あまりいい結果にならないメンタル要素が大きなスポーツです。僕は「本当に海に潜りたかったら、またお越しください。僕は最後までお付き合いします」と伝えました。が、あの怖がり方を見たらもう来てくれないだろうな、と自分たちの指導力のなさを反省しました。
Sさんはもう来ない。その予想は翌日かかって来た予約電話でサクッと覆されました。「来週来てもいいですか?」ここから映画ロッキーの「eyes of tiger」を皆さま脳内爆音で読んでください。
Sさんのリベンジが始まります。
Sさんは恐怖で水面に顔がつけられなくなっていました。つけてもすぐに顔をあげてしまいます。息苦しさを訴えます。ダイビングにはいろんな練習が「スキル」という形であるのですが、それができない場合、僕はそのスキルをさらに細かく分解してスモールステップで習得してもらいます。僕の48ある必殺技の1つ「分解練習」です。
マスクつけて口には何も咥えずに10秒顔をつける。次はスノーケルで息止めていいので10秒顔をつける。次はスノーケルで呼吸してみる、陸上でレギュレータで呼吸してみる、水面レギュレータで顔つけて10秒息止めてみる、10秒呼吸してみる、10回深呼吸してみる、20回深呼吸してみる・・・。様子を見ながら少しづつレベルをあげます。完全にメンタルトレーニングです。ダイビングが怖い人は器材を信用していないという共通点があります。ダイビングの練習のほとんどが「器材の使い方」です。
海への恐怖のマインドブロックを外す。
「あ、10回呼吸するだけでいいの?ならやってみる」その辺りからSさんの心のブロックが外れました。このブロックがいつどのタイミングで外れるのか、それはご本人にもわかりません。恐怖と必死に戦っている、弱い自分の心と戦っている、それに根気よく付き合うしかありません。
2日間少しづつ練習を重ね、ついに追加トレーニングでSさんはダイバー認定を受けました。これで僕の仕事は終わった、「最後まで付き合う」約束を果たしたと思いました。しかし、Sさんにとってリベンジはまだ終わっていませんでした。
「インストラクターコース、オレ入っちゃダメですか?」
つい先日まで、足の立つところで顔を水につけられなかった人がいう言葉でしょうか。驚きながらも僕は即答しました「最後まで付き合いますよ。」ダイビングは本人がやりたいと思えば、からなず夢が叶うからです。
それからSさんはめちゃくちゃ努力しました。彼は40代、体力も落ちてます。やはり空気消費が早くて「それでもイントラコースかよ」とバカしてた人たちがいたことも僕は知っています。それでも耐えました。大好きなタバコもやめました。ダイビングは他のスポーツとは違い、得点や速さを競うような勝ち負けがありません。その代わり、大自然が相手です。海は遊園地のように安全が保証されている場所ではありません。コンディションがハードであるほど僕らプロでもナーバスになることもあります。
恐怖や緊張を克服して自分を超えることこそ、ダイビングの魅力だと僕は思っています。過去の自分を超えると、目の前に広がる光景が全く変わる。
僕はそれを知ってダイビングにのめり込みました。Sさんもきっとその楽しさや嬉しさにドハマリしたのだと思います。
この1年であなたは何が変わりましたか?
そして今年6月。
Sさんは見事インストラクター試験に合格しました。1年前一番落ちこぼれだった人が、一番上達しました。Sさんは、周りの雑音に心折れず、過去の弱い自分を超えました。彼は全てひっくるめて勝ちました。
Sさんになんでイントラになろうと思ったんですか?と聞いたことがあります。
「自分の子供に海の世界を教えて、カードに自分の名前を入れたい」
僕がIPC(インストラクター準備コース)で口酸っぱく伝えてるインストラクターの使命「ダイビングでお客様の人生にポジティブな影響を与える」ことに他ありません。
今、この文章を僕はモルディブのクルーズの上で書いています。大物連発の海ですが、潮の流れがキツくてすごく難しい海です。向こうのテーブルでSさんこと杉田さんが窓の外の海を見ています。
その表情は去年のGWの時とは全く違う晴れやかな顔つきです。
1年で人はこんなにも変わるのか。
あなたはこの1年で何が成長しましたか?
僕も自問しながら毎日の講習を充実させたいと思います。